【脂質異常症とは?】簡単解説と注意すべき症状

健康寿命

健康診断でコレステロール値が高いと言われたり、脂質異常症と診断されたりしても、「症状がないから大丈夫」と思っていませんか? 脂質異常症は自覚症状が少なく、放置すると心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる重大な病気を引き起こす可能性があります。しかし、早期に対処すれば将来のリスクを確実に減らせます。この記事では、脂質異常症の原因、診断基準、治療法、予防策を解説します。この機会に正しい知識を身につけ、ご自身の健康を守りましょう。

脂質異常症とは何か?

健康診断などで耳にする「脂質異常症」。言葉は知っていても、具体的に体の中で何が起こっているのか、正確に理解している方は少ないかもしれません。これは単に「油っこいものが血液中に多い」という単純な話ではありません。血液中の脂質の「バランス」が崩れ、血管の健康を静かに蝕んでいく状態を指します。放置すれば命に関わる病気にもつながるこの状態について、まずはその基本的な定義と危険性から見ていきましょう。

脂質異常症の基本的な定義

脂質異常症とは、血液中に含まれる「脂質」、具体的には「悪玉(LDL)コレステロール」「善玉(HDL)コレステロール」「中性脂肪(トリグリセライド)」の量が基準値から外れ、バランスが崩れてしまった状態を指します。

以前は血液中の脂質が多い状態を指す「高脂血症」と呼ばれていましたが、脂質の一種である善玉(HDL)コレステロールは、逆に低すぎることが問題となるため、2007年からは「脂質異常症」という名称に改められました。

  • 悪玉(LDL)コレステロール: 全身にコレステロールを運ぶ役割がありますが、増えすぎると血管の壁にたまり、動脈硬化の原因となります。
  • 善玉(HDL)コレステロール: 体内の余分なコレステロールを回収し、動脈硬化を防ぐ働きをします。「血管のお掃除役」と考えると分かりやすいでしょう。
  • 中性脂肪(トリグリセライド): 体のエネルギー源として重要ですが、過剰になると肥満につながり、悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らす原因にもなります。

脂質異常症が引き起こす可能性のある病気

脂質異常症を放置する最大のリスクは「動脈硬化」です。増えすぎた悪玉コレステロールなどが血管の内壁に付着すると、血管が硬く、狭くなっていきます。これが動脈硬化です。

動脈硬化は自覚症状がないまま進行し、全身の血管に影響を及ぼします。その結果、以下のような命に関わる重大な病気を引き起こす可能性があります。

  • 心臓の病気: 心臓に血液を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりすることで起こります。
    • 狭心症: 血管が狭くなり、心臓への血流が一時的に不足する状態。胸の痛みや圧迫感が生じます。
    • 心筋梗塞: 血管が完全に詰まり、心臓の筋肉が壊死してしまう状態。命の危険があります。
  • 脳の病気: 脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こります。
    • 脳梗塞: 脳の血管が詰まり、脳細胞が壊死する病気。麻痺や言語障害などの後遺症が残ることがあります。
  • その他の病気:
    • 閉塞性動脈硬化症: 足の血管が動脈硬化を起こし、血流が悪くなる病気。歩くと足が痛むなどの症状が出ます。
    • 大動脈瘤: 大動脈の壁がもろくなり、こぶのように膨らむ状態。破裂すると大量出血で命を落とす危険性があります。

脂質異常症の診断基準と症状

動脈硬化を進め、重大な病気のリスクを高める脂質異常症。では、どのような状態になったら「異常」と判断されるのでしょうか。その答えは、健康診断などで行われる血液検査の数値にあります。ここでは、脂質異常症と診断される具体的な基準値と、その確認方法を詳しく解説します。また、「サイレント・キラー」と呼ばれるこの病気の症状の特徴についても触れていきます。自分は大丈夫か、客観的な指標で確認してみましょう。

診断基準の詳細と確認方法

脂質異常症は、空腹時に採血を行い、血液中の脂質の値を調べることで診断されます。日本動脈硬化学会が定める診断基準は以下の通りです。

脂質の種類基準値診断名
LDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール40mg/dL未満低HDLコレステロール血症
トリグリセライド(中性脂肪)150mg/dL以上高トリグリセライド血症
non-HDLコレステロール170mg/dL以上高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL境界域高non-HDLコレステロール血症

※non-HDLコレステロール = 総コレステロール – HDLコレステロール。動脈硬化を引き起こす全てのコレステロールを含んでおり、近年重視されています。

これらの基準のうち、一つでも当てはまれば脂質異常症と診断されます。健康診断の結果を受け取ったら、必ずこれらの項目を確認しましょう。

脂質異常症の主な症状とその特徴

脂質異常症は「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」とも呼ばれ、ほとんどの場合、自覚症状はありません。 これが、この病気の最も恐ろしい点です。症状がないため放置してしまい、気づいた時には動脈硬化がかなり進行し、心筋梗塞や脳梗塞を発症して初めて判明するというケースも少なくありません。

ただし、例外的に重度の脂質異常症、特に遺伝的な要因が強い「家族性高コレステロール血症」の場合には、以下のような特徴的な症状が現れることがあります。

  • 黄色腫(おうしょくしゅ): コレステロールが皮膚や腱に沈着してできる黄色いしこり。
    • 腱黄色腫: アキレス腱が太くなる、手の甲や肘、膝などに硬いしこりができる。
    • 眼瞼黄色腫(がんけんおうしょくしゅ): まぶたにできる、平たくて黄色いできもの。
  • 角膜輪(かくまくりん): 黒目のふちに白い輪が見える状態。

これらのサインが見られる場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。

脂質異常症の原因とリスク要因

健康診断の結果を見て、基準値を超えてしまった自分の数値。なぜこのような状態になってしまうのでしょうか。その原因は一つではありません。生まれ持った遺伝的な体質が強く影響する場合もあれば、日々の何気ない生活習慣の積み重ねが大きく関わっている場合も非常に多いのです。ここでは、自分ではどうにもできない遺伝的要因と、意識することで変えられる生活習慣のリスク要因について、それぞれ詳しく掘り下げていきます。原因を知ることが対策の第一歩です。

遺伝的要因と家族性高コレステロール血症

脂質異常症の原因には、遺伝的な体質が関わっている場合があります。その代表が「家族性高コレステロール血症(FH)」です。これは、生まれつき悪玉(LDL)コレステロールを体内でうまく処理できない遺伝性の病気で、若いうちから血液中のLDLコレステロール値が著しく高くなります。

そのため、動脈硬化の進行が非常に速く、男性では45歳まで、女性では55歳までに心筋梗塞などを発症するリスクが非常に高いことが知られています。血縁者にコレステロール値が非常に高い人や、若くして心筋梗塞などを起こした人がいる場合は注意が必要です。

生活習慣が及ぼす影響

遺伝的要因以外で、最も大きな原因となるのが日々の生活習慣の乱れです。以下のような習慣は、脂質異常症の大きなリスク要因となります。

  • 食生活の乱れ:
    • 高カロリー・高脂肪食: 肉の脂身、バター、生クリームなどの動物性脂肪(飽和脂肪酸)や、マーガリン、ショートニングなどに含まれるトランス脂肪酸の摂りすぎ。
    • コレステロールの多い食品の過剰摂取: 鶏卵、レバー、魚卵など。
    • 糖質の摂りすぎ: 甘いお菓子、ジュース、果物の食べ過ぎや、ご飯・パン・麺類などの主食の過剰摂取は中性脂肪を増やします。
  • 運動不足: 運動は善玉コレステロールを増やし、中性脂肪を減らす効果があります。運動不足はこの逆の状態を招きます。
  • 肥満: 特に内臓脂肪が増えると、中性脂肪の合成を促し、脂質異常を悪化させます。
  • 喫煙: 喫煙は善玉コレステロールを減らし、悪玉コレステロールの酸化(より有害な状態に変化させること)を促進して動脈硬化を進めます。
  • 過度の飲酒: アルコールの飲み過ぎは中性脂肪を増やす直接的な原因になります。
  • ストレス: 長期的なストレスはホルモンバランスを乱し、脂質代謝に悪影響を及ぼすことがあります。

脂質異常症の治療法と予防策

脂質異常症の原因がわかったら、次はいよいよ具体的な対策です。幸いなことに、この病気は生活習慣の見直しによって、その多くが改善・予防可能です。たとえ遺伝的な要因があったとしても、適切な治療でリスクを管理することができます。このセクションでは、医療機関で行われる治療の目標やその方法、そして今日から自分自身で始められる食事や運動を中心とした予防策について、実践的な内容を解説します。未来の健康のために、今できることから始めましょう。

治療の目標値とその達成方法

脂質異常症の治療目標は、単に数値を基準値内に戻すことだけではありません。個々の患者さんが持つ他のリスク(高血圧、糖尿病、喫煙歴、心臓病の家族歴など)を総合的に評価し、将来の動脈硬化性疾患を予防するために、それぞれに合った管理目標値を設定します。

例えば、すでに心筋梗塞を起こしたことがある方(二次予防)は、まだ病気を発症していない方(一次予防)よりも厳しい目標値が設定されます。

治療の基本は以下の3本柱です。

  1. 食事療法: すべての治療の基本です。
  2. 運動療法: 食事療法と並行して行います。
  3. 薬物療法: 食事・運動療法を数ヶ月行っても目標値に達しない場合や、リスクが非常に高い場合に検討されます。スタチン系の薬などが中心となります。

生活習慣の改善による予防

脂質異常症の予防は、治療の基本である生活習慣の改善そのものです。今日から始められる具体的なポイントをご紹介します。

食生活の改善ポイント

  • 腹八分目を心がけ、適正体重を維持する。
  • 飽和脂肪酸を減らす: 肉の脂身、バター、ラードを控え、赤身肉や鶏むね肉(皮なし)などを選ぶ。
  • 良質な油を摂る: 魚(特にサバ、イワシ、サンマなどの青魚)に含まれるEPA・DHAや、オリーブオイル、なたね油などを適度に摂る。
  • 食物繊維をたっぷり摂る: 野菜、きのこ、海藻、玄米などを積極的に食事に取り入れる。コレステロールの吸収を抑える働きがあります。
  • 大豆製品を摂る: 豆腐、納豆、豆乳などはコレステロールを下げる効果が期待できます。
  • 糖質・アルコールは控えめに: 甘いものやお酒はほどほどに。

運動習慣のポイント

  • 有酸素運動を習慣に: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど、少し息が弾む程度の運動が効果的です。
  • 目標は1日30分以上、週3日以上: まとまった時間が取れなければ、10分の運動を3回に分けるなど、こまめに行うだけでも効果があります。
  • 日常生活でこまめに動く: エレベーターを階段にする、一駅手前で降りて歩くなど、できることから始めましょう。

その他のポイント

  • 禁煙: 禁煙は必須です。受動喫煙も避けましょう。
  • 節酒: 適量を守り、休肝日を設けましょう。
  • ストレス解消: 自分に合ったリラックス方法を見つけ、心身の健康を保ちましょう。

まとめ

脂質異常症は、自覚症状がないために軽視されがちですが、放置すれば動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞といった命を脅かす病につながる危険な状態です。しかし、健康診断などで早期に発見し、生活習慣を見直すことで、そのリスクを大幅に下げることが可能です。

この記事をきっかけに、ご自身の生活習慣を振り返ってみてください。そして、健康診断の結果で「脂質異常症」や「境界域」を指摘された方は、決して放置せず、かかりつけ医に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。正しい知識と少しの行動が、あなたの未来の健康を守る大きな一歩となります。

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