「免疫力」ってよく聞くけど、実際どんな働きをしているの?

健康

テレビの健康番組や雑誌の特集などで免疫力という言葉を見聞きしない日はありません。特に季節の変わり目や感染症が流行する時期になると、多くの人が自分の体の防衛システムに関心を寄せます。しかし、この免疫力という言葉の意味を正しく理解し、具体的に体の中で何が起きているのかを説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。なんとなく体に良いことをすれば上がるものというイメージはあっても、その実態は目に見えないため掴みどころがありません。私たちの体は毎日数え切れないほどの細菌やウイルスにさらされていますが、それでも毎日元気に過ごせているのは、この精巧なシステムが休むことなく働き続けているおかげです。この記事では、私たちの体を守る砦である免疫の正体と、その驚くべきメカニズムについて、専門的な知識がない方にも分かりやすく紐解いていきます。

私たちの体を守る精巧な識別システム

免疫の働きをひと言で表すならば、それは自分と自分以外のものを識別し、敵を排除する高度なセキュリティシステムといえます。私たちの体は数十兆個もの細胞で構成されていますが、その細胞たちはすべて同じ遺伝情報を持つ仲間です。ところが外部からは常に、細菌やウイルス、花粉やホコリといった異物が体内に侵入しようと虎視眈々と機会をうかがっています。免疫システムはこれらの侵入者を瞬時に見分け、排除することで私たちの健康を維持しています。この章では、免疫の基本となる識別機能と、その実行部隊について詳しく見ていきましょう。

「自己」と「非自己」を見分ける能力

免疫システムにおいて最も基本的かつ重要な機能は、自己と非自己を厳密に区別することにあります。ここで言う自己とは、自分自身の細胞や組織のことを指し、非自己とは外部から侵入してきたウイルスや細菌、あるいは体内で発生した変質細胞などを指します。私たちの体には、自分の細胞には攻撃を加えず、自分ではない異物だけを攻撃対象とする素晴らしい仕組みが備わっています。もしこの識別システムが誤作動を起こし、あろうことか自己を非自己とみなして攻撃してしまうと、アレルギー反応や自己免疫疾患といったトラブルが引き起こされてしまいます。健康な状態であれば、免疫システムはパスポートを確認する入国審査官のように、体内の細胞一つひとつをチェックし、それが味方であるか敵であるかを瞬時に判断しています。この厳格な識別能力こそが、私たちが病気に負けずに生きていくための基盤となっているのです。

体内をパトロールする「白血球」と「免疫細胞」

自己と非自己の識別を行った後、実際に敵と戦う実働部隊として活躍するのが血液中に存在する白血球です。白血球というのは単一の細胞の名前ではなく、体を守るために働く様々な細胞の総称です。この白血球に含まれる多種多様な細胞たちのことを、私たちは総称して免疫細胞と呼んでいます。免疫細胞たちはそれぞれ得意分野を持っており、ある細胞は侵入者を真っ先に見つけて仲間に知らせ、ある細胞は武器を使って敵を攻撃し、またある細胞は戦いが終わった後の掃除を担当するなど、見事なチームプレーを発揮します。血管やリンパ管という体内を巡る道路を使って、免疫細胞は全身くまなくパトロールを行っており、異物が侵入した現場へといち早く駆けつけます。私たちが意識していなくても、体内では常にこの免疫細胞たちによる防衛戦が繰り広げられており、そのおかげで私たちは平穏な日常を送ることができているのです。

二段構えの免疫システム

自然免疫は、生まれつき備わっている最初の防衛ラインであり、侵入してきた異物の種類に関わらず、マクロファージやNK細胞などが数時間以内に現場に急行し、敵を食べて無力化するなど、迅速な初動対応を行います。風邪の初期症状として現れる発熱や喉の痛みなどは、この自然免疫が戦っている証拠です。

獲得免疫は、自然免疫で対処しきれない敵や、過去に経験したことのある特定の敵に対して発動する、より専門的な防衛システムです。T細胞やB細胞といった免疫細胞が中心となり、敵の情報を記憶し、その敵だけに有効な抗体という武器を作り出します。この記憶のおかげで、一度かかった感染症にはかかりにくくなり、ワクチンによる予防効果も生まれるのです。私たちの体は、まず素早い「自然免疫」で広く対応し、次に学習能力を持つ「獲得免疫」で専門的に排除するという、巧妙な連携によって守られています。

免疫の司令塔「腸」

腸が司令塔である理由は、体内の免疫細胞の約7割が腸に集結しているからです。これは、食物を通じて外部からの異物が侵入する最大のルートが腸であるため、病原体の侵入を防ぐ最前線基地となっているからです。

腸内環境の役割、腸の働きを支える腸内細菌のバランス、つまり腸内環境が整っていることが、免疫細胞を正常に機能させる鍵となります。善玉菌が優勢な状態であれば免疫細胞は活性化し、逆に悪玉菌が増えると免疫機能の低下やアレルギーのリスクが高まります。私たちが摂る食事は、腸内細菌のエサとなり、そこで作られる代謝物質(短鎖脂肪酸など)が直接免疫細胞の働きをコントロールしています。したがって、バランスの取れた食事は、腸の免疫細胞に良質な補給物資を届け、結果的に体全体の防衛力を高めることにつながるのです。

見えない免疫のコントロール役

自律神経の役割は、活動時に優位な交感神経と、リラックス時に優位な副交感神経があり、これらがバランスを取りながら免疫細胞の働きをコントロールしています。交感神経優位(ストレス時)では、特定の免疫細胞(顆粒球)が優位になり、リンパ球の働きが抑制されがちです。現代人のようにストレスで交感神経が優位な状態が続くと、ウイルスへの抵抗力が弱まるリスクがあります。免疫力を最大限に発揮するには、この二つの神経が適度にバランス良く切り替わることが不可欠です。

睡眠の重要性は、免疫システムにとって欠かせないメンテナンス時間です。睡眠中は副交感神経が優位になり、リンパ球が活性化して、日中に処理しきれなかった病原体の排除や、傷ついた細胞の修復が集中して行われます。睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、免疫機能全体を抑制するため、免疫力を維持するためには、単に体を休めるだけでなく、質の高い十分な睡眠時間を確保することが最も重要な投資となります。

体のコンディションと免疫力の関係

免疫細胞がその能力を十分に発揮するためには、彼らが活動しやすい物理的な環境が整っている必要があります。その中でも特に重要な要素が体温です。私たちの体温は、細胞内の様々な化学反応や酵素の働きに大きな影響を与えており、わずかな温度変化が免疫システム全体のパフォーマンスを劇的に変えてしまうことがあります。現代生活では空調の完備や運動不足により低体温の人が増えていると言われますが、これは免疫の観点から見ると非常に憂慮すべき事態です。最後の章では、体温と免疫力の相関関係と、私たちが日々の生活で意識すべき温度管理について見ていきましょう。

「体温」が一度下がると免疫力は三割落ちる

一般的に、体温が一度下がると免疫力は三〇パーセントも低下し、逆に体温が一度上がると免疫力は五倍から六倍にもアップすると言われています。これには明確な理由があります。免疫細胞を含む体内の細胞は、血液によって酸素や栄養を受け取って活動していますが、体温が下がると血管が収縮して血流が悪くなり、免疫細胞が必要な場所へ迅速に移動できなくなってしまいます。さらに、免疫細胞が敵を攻撃する際に使う酵素などの物質は、三六・五度から三七度程度の温度帯で最も活発に働きます。体が冷えている状態では、たとえ免疫細胞の数が足りていても、彼らの動きが鈍くなり、本来の攻撃力を発揮することができません。風邪をひいた時に熱が出るのは、体が意図的に体温を上げてウイルスにとって居心地の悪い環境を作り、同時に免疫細胞の戦闘力を最大化しようとする防衛反応なのです。したがって、平熱が低い低体温の人は、常に免疫システムが本調子を出せないハンデを背負っていることになります。

日常生活で体を温めることの意義

免疫力を高く保つためには、体を冷やさない生活習慣を心がけることが大切です。入浴は、シャワーだけでなく湯船に浸かり、深部体温を上げて全身の血流を促進します。運動は、筋肉は体内で熱を最も多く生み出すため、適度な運動で筋肉量を維持し、長期的な体温上昇につなげます。冷たい飲み物を避け、根菜類や生姜など体を温める食材を積極的に取り入れます。冬場だけでなく、夏の冷房による冷えにも注意が必要です。

日々の小さな温活の積み重ねが、結果としてウイルスや病気を寄せ付けない強固な防衛システムを築き上げることになるのです。

まとめ

免疫力とは、単なる抽象的な健康のバロメーターではなく、私たちの体内で自己と非自己を識別し、白血球などの免疫細胞がチームとなって異物を排除する、極めて具体的かつ精巧なシステムのことでした。生まれつき備わった自然免疫と、経験によって強化される獲得免疫の二段構えで私たちは守られています。また、このシステムを最大限に機能させるためには、免疫細胞の七割が集まる腸内環境を整えること、自律神経のバランスを保ち質の高い睡眠をとること、そして体温を高く保つことが不可欠です。免疫力は一日で急激に上がるものではありませんが、日々の食事や生活習慣の積み重ねによって確実に強化することができます。この記事で解説した仕組みを意識しながら、ご自身の生活を見直してみてはいかがでしょうか。

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