【更年期】「やる気が出ない」はサインかも。心の不調におすすめの漢方5選
朝、目が覚めた瞬間に言いようのない重だるさを感じたり、これまで楽しんでこなしていた家事や仕事に対して急激に億劫な気持ちを抱いたりすることはありませんか。自分では怠けているつもりなど毛頭ないのに、なぜか体が動かない、気持ちがついていかないという状態は、多くの女性が経験する深い悩みの一つです。もしあなたが今、そのような言葉にできない不調を感じているのであれば、それは決してあなたの性格が変わってしまったからでも、気合が足りないからでもありません。閉経を挟んだ前後約十年間に訪れる更年期という期間において、心と体は私たちが想像している以上に劇的な変化の渦中にあります。特に心の不調は目に見えにくく、周囲の理解を得にくいこともあり、ひとりで抱え込んでしまう方が少なくありません。西洋医学的なアプローチである抗うつ薬には少し抵抗があるけれど、このつらい状態を何とかして和らげたいと願うとき、心強い味方となってくれるのが東洋医学の知恵である漢方です。自然由来の生薬が持つ力を借りて、乱れてしまった心と体のバランスを優しく整えていく方法は、繊細な更年期のからだに適していると言えるでしょう。この記事では、やる気が出ないというサインを見逃さず、本来の自分らしい笑顔を取り戻すために役立つ漢方の知識と、おすすめの処方を詳しくご紹介していきます。
更年期特有の心の揺らぎが起きるメカニズム
更年期に差し掛かると、私たちの体内では今まで当たり前のように分泌されていた女性ホルモンが急激に減少し始め、その変化に脳や身体が必死に対応しようと混乱を起こしている状態が続きます。これは単なる老化現象という言葉で片付けることのできない、身体のシステム全体の大きな変革期なのです。特に脳の視床下部は、ホルモンの分泌指令を出す司令塔であると同時に自律神経のコントロールセンターでもあるため、ホルモンバランスの激変はダイレクトに自律神経の乱れを引き起こします。この章では、なぜ更年期にうつに似た症状が現れるのか、その根本的な原因について紐解いていきましょう。
女性ホルモンの減少と脳内物質の関係性について
私たちの心身を長年にわたって守り、若々しさを保ってくれていた女性ホルモンであるエストロゲンには、実は脳内の神経伝達物質を調整する重要な働きも備わっています。幸福ホルモンとも呼ばれるセロトビンの生成や機能をサポートしているのも、このエストロゲンの役割の一つです。しかし更年期に入りエストロゲンの分泌量がジェットコースターのように乱高下しながら減少していくと、脳内のセロトニン濃度も不安定になり、わけもなく悲しくなったり、意欲が低下したりといった精神的な症状が現れやすくなります。これは自分の意志でコントロールできる領域を超えた生理的な反応であり、脳が一時的にエネルギー不足のような状態に陥っていると言えるでしょう。
自律神経の失調が招く心と体の負の連鎖
ホルモンバランスの乱れに引きずられる形で自律神経の働きが不安定になると、交感神経と副交感神経の切り替えがスムーズにいかなくなります。本来であればリラックスすべき夜間に交感神経が高ぶってしまえば不眠に陥りますし、活動すべき日中に副交感神経が優位になれば強い眠気やだるさに襲われることになります。このように自律神経が乱れると、動悸や発汗といった身体的な症状だけでなく、常に緊張状態が解けないことによる強い不安感やイライラといった精神症状が強く表れるようになります。体調が悪いから気分が落ち込むのか、気分がふさぐから体調が悪化するのかという負のスパイラルに陥りやすいのが、この時期の特徴なのです。
東洋医学が捉える心の不調と体質の見極め方
西洋医学が病気の原因となっている特定の臓器やウイルスを攻撃し治療することを得意とするのに対し、東洋医学である漢方は心と体はひとつながりであるという心身一如の考え方に基づき、全体のバランスを整えることを重視しています。更年期のうつ症状に対しても、単に気分を上げる薬を処方するのではなく、その背景にある体全体の歪みを見つけ出し、不足しているものを補ったり滞っているものを巡らせたりすることで改善を目指します。漢方薬を選ぶ際に最も重要となるのは、その人の体質や現在の状態を見極めることであり、ここでは漢方独自の視点である気・血・水や体力レベルについて解説します。
生命エネルギーである気の異常と心の関係
漢方の世界では、生命活動を維持するための根源的なエネルギーを気と呼び、この気が体内をスムーズに巡っている状態こそが健康であると定義しています。更年期のやる気が出ない状態やうつ気分は、この気が不足している気虚の状態か、あるいは気の巡りが悪くどこかで停滞している気滞の状態であると考えられます。気が不足すればエンジンがかからない車のように動けなくなり、気が滞れば行き場を失ったエネルギーが爆発してイライラやヒステリー球のような症状を引き起こします。漢方治療では、この気の量と巡りを正常化させることで、心の平穏を取り戻そうとアプローチするのです。
体力レベルである証に合わせた薬選びの重要性
漢方薬を選ぶ際に決して無視できないのが、その人の体力がどの程度あるかという証の概念です。がっちりとした体格で胃腸も丈夫な実証タイプの人と、華奢で顔色が悪く胃腸が弱い虚証タイプの人では、同じうつ症状を訴えていたとしても適した薬は全く異なります。体力のない人に強い作用を持つ薬を使えば胃腸障害などの副作用が出るリスクがあり、逆に体力のある人に穏やかすぎる薬を使っても十分な効果が得られない可能性があります。ご自身の体力が充実しているのか、それとも低下しているのかを客観的に判断し、体質に合った処方を選ぶことが治療の第一歩となります。
イライラや不安が強いタイプにおすすめの漢方薬
更年期の精神症状として非常によく見られるのが、些細なことで激昂してしまうイライラや、喉の奥に何かが詰まっているような不快感、そして理由のない不安感です。これらは気の巡りが阻害されていることによって生じることが多く、滞った気を流してあげることで劇的に症状が改善するケースが多々あります。ここでは、感情のコントロールが難しくなっている方や、身体的な違和感を伴う精神不調に悩む方に向けて、代表的な漢方薬をご紹介します。
のぼせや感情の起伏には加味逍遙散
加味逍遙散は更年期障害の治療薬として非常に有名であり、多くの婦人科でも第一選択薬として処方されることの多い漢方薬です。体力が中程度以下で、肩がこりやすく、疲れやすい方に適しています。特に、ホットフラッシュのように急に顔が熱くなったり、その直後に寒くなったりといった身体症状とともに、イライラして爆発しそうな精神状態と落ち込んでクヨクヨする状態が交互にやってくるような不安定な心に効果を発揮します。滞った気の巡りを良くすると同時に、体にこもった余分な熱を冷ます働きがあるため、のぼせや発汗を伴うイライラ感に悩む方には最適の処方と言えるでしょう。
喉のつかえや塞ぎ込む気分には半夏厚朴湯
なんとなく気分がふさいでやる気が出ないだけでなく、喉の奥に梅干しの種が引っかかっているような異物感を感じることはありませんか。これは漢方では梅核気と呼ばれる特有の症状であり、ストレスによって気の巡りが停滞している典型的なサインです。このような症状には半夏厚朴湯が非常によく効きます。体力は中程度の方に向いており、不安感が強く、動悸やめまい、あるいは咳き込むような症状がある場合にも用いられます。この薬は停滞している気を動かし、喉元のつかえを取り除くことで、呼吸を楽にし、ふさぎ込んでいた気分をスッキリとさせる効果が期待できます。
元気不足や不眠が目立つタイプにおすすめの漢方薬
一方で、イライラするというよりは、とにかく体がだるくて起き上がれない、夜になっても眠れない、食欲がないといった、エネルギー枯渇型の不調を訴える方も少なくありません。このようなタイプの方は、心と体の栄養分が不足している状態にあるため、まずはしっかりとエネルギーを補い、心身を滋養してあげることが回復への近道となります。ここでは、疲れ切ってしまった心と体に優しく作用し、睡眠の質を高めながら意欲を回復させる漢方薬を見ていきましょう。
貧血気味で眠れない夜には加味帰脾湯
顔色が悪く、貧血気味で、日中もすぐに横になりたがるような虚弱体質の方には加味帰脾湯がおすすめです。この漢方は、胃腸の働きを助けて気と血というエネルギーと栄養を全身に行き渡らせることで、心身の活力を底上げします。特に、精神的な不安や緊張が強くて寝つきが悪い、あるいは夜中に何度も目が覚めてしまうという不眠の症状に対して優れた効果を発揮します。心に栄養が行き渡ることで、ささくれ立っていた神経が穏やかに鎮まり、物忘れや日中の集中力低下といった悩みも徐々に改善されていくことが期待できるでしょう。
悪夢や動悸で目覚める方には柴胡加竜骨牡蛎湯
比較的体力はあるものの、精神的なストレスが強くかかっており、些細なことが気になって仕方がないという方には柴胡加竜骨牡蛎湯が良い選択肢となります。この薬は、身体にこもった熱や興奮を鎮め、高ぶった神経を落ち着かせる作用が強力です。動悸がして胸が苦しい、寝ていても怖い夢を見てうなされる、便秘がちであるといった症状を伴ううつ状態に適しています。気の巡りを改善しながら心を重石で落ち着かせるように安定させるため、試験前や大きなプレゼン前のような緊張状態が日常的に続いている更年期の方の、張り詰めた糸を緩める助けとなります。
漢方薬を生活に取り入れる際のポイントと注意点
ご自身の症状や体質に合いそうな漢方薬は見つかりましたでしょうか。漢方は西洋薬に比べて副作用が少ないと言われていますが、それでも体質に合わないものを飲み続ければ思わぬトラブルを招くこともありますし、効果の出方にも個人差があります。ここでは、実際に漢方薬を購入して服用を始める際に知っておいていただきたい大切なポイントや、医療機関を受診すべきタイミング、そして副作用への備えについて詳しく解説していきます。
ドラッグストアでの購入と専門医への受診の使い分け
近年ではドラッグストアや薬局でも、更年期障害や気分の落ち込みに効く漢方薬が数多く市販されており、手軽に試せるようになりました。パッケージには体力や症状の目安がわかりやすく記載されているため、まずはセルフメディケーションとして市販薬を二週間ほど試してみるのも良い方法です。しかし、もし市販薬を服用しても症状の改善が見られない場合や、症状が重くて日常生活に支障をきたしている場合は、迷わず婦人科や漢方を扱う心療内科を受診してください。専門医であれば、より詳細な問診と診察に基づき、あなたの証にぴったり合った処方や、必要に応じて西洋薬との併用など、最適な治療計画を提案してくれるはずです。
漢方薬の効果が現れる期間と副作用への注意
漢方薬は即効性がないと思われがちですが、こむら返りや風邪の初期などに使う薬のようにすぐに効くものもあれば、体質改善を目的としてじっくりと効いていくものもあります。更年期のうつ症状に対しては、服用を始めてから二週間から一ヶ月程度で「なんとなく調子が良いかも」と感じられるようになるのが一般的です。焦らずに継続することが大切ですが、もし服用後に胃のむかつき、食欲不振、発疹、あるいはむくみなどの症状が現れた場合は、体に合っていない可能性があるため直ちに服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。自然由来だからといって副作用が全くないわけではないことを理解し、自分の体の声に耳を傾けながら付き合っていくことが大切です。
まとめ
更年期に訪れる「やる気が出ない」「気分が落ち込む」といった症状は、長年頑張り続けてきたあなたの心と体が発している、休息とケアを求める大切なサインです。それは決して怠けではなく、ホルモンバランスの激変という大きな波に体が適応しようとしている証拠でもあります。今回ご紹介した漢方薬は、乱れてしまった気や血のバランスを整え、本来あなたが持っている治癒力を引き出すための強力なサポーターとなってくれるはずです。イライラには加味逍遙散、喉のつかえには半夏厚朴湯、不眠と疲れには加味帰脾湯など、ご自身の体質と今の悩みに寄り添う処方を見つけることで、霧が晴れるように心が軽くなる日が必ず訪れます。まずはドラッグストアでパッケージを手に取ってみる、あるいは漢方に詳しい医師に相談してみるという小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。焦らずゆっくりと、漢方の優しい力を借りて、自分自身をいたわる時間を持っていただけることを願っています。

